魂は孤独

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2016年冬アニメ総括② 昭和元禄落語心中・僕だけがいない街

はじめに

前回に引き続き、16年冬アニメを振り返る。

今回は、前回にも書いた通り、冬アニメの中でも特に面白かった4作に挙げた残りの2作、シリアス枠として圧倒的に面白かった「昭和元禄落語心中」と「僕だけがいない街」の感想を書いていく。

昭和元禄落語心中

落語という実写でやった方がやりやすいであろう題材を、アニメーションでなければできない領域まで持っていった大作。

八代目八雲が自身の人生を振り返る形で進行していく。

 

こちらも最終回で2期が発表されている。

恐らく、八雲の話を聞いた与太郎の成長の物語にシフトするのだろう。

非常に楽しみだ。

落語心中の落語描写

落語は本来、生で見ても、単に落語をやっている姿しか見えないし、落語だけを楽しむものだ。

しかし、落語家が主役のアニメなのだから、当然通常では見えない部分まで見える。

スポ根物などにも言えることだが、観客ではなく、それをやる本人たちの心情まで楽しめるのは創作物の特権だろう。

 

1話、落語をする与太郎のうなじを流れる汗、汗で濡れるふくらはぎなど、描写が非常に細かく、感嘆した。

やっている最中の緊張感、芸がのってきたときの高揚感が伝わってきて、見ている間はこちらが息苦しいぐらいだった。

 

更に、落語というのは「一人で」「ほとんど座ったまま」やるものだ。

普通に映像にすると画面の動きがほとんど無くなってしまう。

単に落語の映像を見るならそれで当然だし、それのせいで退屈ということはないだろう。

しかし、アニメでこれをそのままやってしまうと、つまらない画面になる。

なので、今作ではあらゆるカメラワークで工夫されていた。

役が変わる度に切り替わるカメラ、表情で魅せる作画、あえて顔ではなく手の震えや上述のうなじなどを映すなど、退屈な瞬間が全くない。

同じ手法を多用することもなく、過剰な演出もなく、毎回適度なバランスで作られる映像は絶品だった。

 

また、最早言うまでもないことだが、キャスト陣の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。関智一*1石田彰山寺宏一*2家中宏*3の落語の演技の上手さたるや「本物かよ」という感じだった。

手前の話になるが、落語は父が好きで、一昔前の一般家庭にとってのナイター中継が、自分にとっては落語だった。

熱心に聞いた事はほとんどないし、好きという訳でも無いのだが、いつも落語を聞きながら育ってきた。

そんな自分が、「噺家の喋り方だ」と腰を抜かすほどには皆上手かった。

石田彰山寺宏一ほどの人ですら、厳しいオーディションを受けたというのだから、スタッフ、キャスト、それぞれの気合いの入り方たるや、想像を絶するものだろう。

 

特に石田彰の凄さなんて、今までも十分知っているつもりではあったが、今作ではもはや人間だとは思えなかった。

軽く国宝級である。

役1人の、少年から老齢になるまで。

しかも、若い時の未熟な落語、真打以降の貫録のある落語、まで全てを完璧に調整しており、人一人の人生を丸ごと演じている。

どれだけ言葉を尽くしても、今作での彼の仕事は賞賛しきれないだろう。

落語心中の心情表現

当然、落語だけやっていた訳でも無いし、それだけで面白いはずもない。

今作もちゃんとストーリーがある。

このストーリーが、他のアニメにはないぐらい異質なものだった。

 

2話からは八代目八雲(襲名前は菊比古、以下菊比古)が自分の人生を語って聞かせる形になる。(1話はその話すきっかけを見せるような構成だった)

菊比古の視点で、主に助六との関係を描く。

 

菊比古と助六の関係はもう一言では言い表せないほど複雑だ。

共に同じ師匠に弟子入りし、共に成長していく。

最初は「落語なんてやりたくない」と塞ぎこむ菊比古だが、それを助六の落語に励まされる。

その後も、色々あって助六のことを、尊敬し、羨望し、嫉妬し、愛し、憎むようになる。

言葉にはし難い複雑な感情を抱き、自分の半身のような存在となっていく。

11話か12話での「全ての感情をお前さんから教わった」*4という台詞が全てだっただろう。

 

更にみよ吉という女も登場する。

これがベタな三角関係に発展するのかと思いきや、菊比古は驚くほど彼女に興味を示さなかった。

ただ、これがなかなか厄介な女で、そっけなくされようが何をされようが、菊比古に恋い焦がれ、執着を見せていく。

作中の不穏な空気を醸し出すのに大きな役割を担っていた。

 

今作の凄いところは、この複雑な愛憎模様だけで面白さを引っ張り続けたことだろう。

落語以外派手なアクションも 何も無い。

人間の心理描写の積み重ねだけでストーリーを成立させていく。

小説でもめったにお目にかかれない最高の人間ドラマを、アニメーションでやり遂げたのだ。

 

そして、散々張ってきた伏線、登場人物それぞれの心の爆弾が一気に爆発するのが第九話。

少なくとも、冬アニメの中では一番の神回だったし、アニメ史にも残ると言っても過言ではない凄まじい30分間だった。

 

破門され全てを失う助六

「羨ましかった」と、自分が助六に抱いている感情を、同様に助六も持っていることを知り、それをぶつけられた菊比古の表情。

あの、あれだけ憧れていた助六の背中が情けなく見える瞬間。

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全てを演出の力で鮮やかに視聴者に印象付けていく映像はもう言葉にならない。

見ていない人はとにかく見てくれとしか言いようがない。

菊比古の孤独

無論、9話以降も面白さは止まらない。

ネタバレにはなるが、タイトルから分かる通り、今作は最終的に助六とみよ吉は心中をする。(正確には事故ではあるのだが)

 

俺は途中まで本気で「菊比古はホモで助六が好きなんじゃないか」と疑っていたのだが、まあ、そこまででは無かった。

ただ、菊比古の助六への想いは上述の通り、並々ならぬものがあった。

そして、それをみよ吉は看破していたのだと思う。

菊比古がみよ吉を振った時、みよ吉は「復讐してやる!」と言うのだが、結局それらしいことはしてこなかった。

今思うと、みよ吉の復讐とは「菊比古から、助六と、助六の落語を奪うこと」だったのではないか。

 

結局、みよ吉は最後、また菊比古にすり寄ってくるのだが、自身も忘れていた「復讐」をきっちりやり遂げ、命を落とす。

死の直前、助六は落語よりみよ吉を選ぶのだ。

この、助六が落語を捨てた瞬間の、菊比古の絶望的な表情がまたたまらなかった。

これによって、真の孤独・絶望へ叩き落された菊比古の胸中も、また、簡単な言葉で説明することはできないだろう。

 

最終回では時系列が1話に戻る。(というより、1話よりかなり進んでいるのだが)

そして、その絶望を老齢になっても克服できていない、悲しい八代目八雲の姿が描かれる。

 墓参りのシーンは本当に胸が苦しくなった。

 

最後は弟子の与太郎が「助六を襲名させて欲しい」と申し出るところで1期は終わる。

2期で八雲の傷を与太郎は癒してやることができるのだろうか。

とにかく続きが見たい。

落語心中まとめ

最初に書いたことと似たようなことを書くが、落語心中は「落語」という題材、人間ドラマ・心情表現だけで成立させるストーリーなど、どう考えてもアニメーションより実写向きな作品だった。

それをアニメーションじゃないと出来ない領域まで持っていた大作である。

スタッフ、キャストそれぞれの凄まじい力の入れ具合が画面から絶えず伝わってきた。

 

もし、「面白いアニメを教えてくれ」みたいなことを聞かれたら、しばらくは真っ先に挙げそうである。

後世に語り継いでいきたいぐらいの名作だった。

 

 

昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

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僕だけがいない街

続いて、「僕だけがいない街」の感想を書いていこうと思う。

今作も色々な意味でかなり珍しい題材のアニメだった。

なんと一つの事件を追い続けるサスペンスである。

こちらも実写の方が向いていそうだった。*5

 

いくら今一番勢いのあるマンガ*6とはいえ、「これをアニメでやるんだ!?」と、1話2話を見た時はかなり驚いた記憶がある。

僕だけがいない街のジャンル

今作は、ジャンルが不詳というか、どんな作品なのか、説明がかなり難しいアニメだと思う。

あらすじはウィキペディア僕だけがいない街 - Wikipedia)などに任せるとして、今作にどんな面白さがあったかを書いていきたい。

 

先ほどサスペンスと書いたが、これをサスペンスと呼んでいいのかもイマイチ分からない。(そもそもサスペスンスという言葉自体、様々な定義あって、色々面倒なので、ここでは言及しない)

ただ、今作は、1人の正体不明な連続殺人犯との戦いが展開される。

しかし、決して推理物ではないと思うし、頭脳戦が展開されるわけでもない。(犯人と知恵比べをする訳ではないし、犯人は割とすぐに皆分かると思う)

 

また、今作はタイムリープ物でもある。

とある未解決の事件が存在し、それを解決するために2006年と1988年を行ったり来たりする。

しかし、タイムリープ物のお約束のようなものは利用していない。

特別SFな訳ではないし、タイムリープの説明は「特殊能力」の一言で片づけられる。

最初に雛月を救えなかった時、「これでまた何回も繰り返すんだろ~、『失われた未来を求めて』で見たぞ~」と思ったのだが、雛月の死亡日時を遅らせられたことが分かった時は、とても興奮した。

また、同時に「今作は過去を変えられ、未来もそれを元に影響を与えられる」ということが分かり、かなり驚いた。

そして、実際にタイムリープが行われたのは2回だけだった。

 

 普通のタイムリープ物ではご法度だし、それが出来たとしても、かなりSF的な説明がついて回る。

そういったものを素直に取り入れない姿勢は、もしかしたらある種の怠慢かもしれないが、非常に斬新だったし、今作においてそれは非常に上手く作用していたと思う。

 

そして、もう一つ、自分が今作を見て感じたのが、児童文学っぽさだ。

主人公は29歳で、その脳みそのまま小学生に戻る。

これが主人公が他のキャラクターより優れていること(いわゆる「俺つえー」、最近のラノベやそれ原作のアニメを揶揄する言葉だが、基本的にどんな物語にもこの要素は必要)に対して説得力があった。

でも、少なくともビジュアルは小学生だし、主人公はタイムリープ以外何の能力も持っておらず、タイムリープ後に出来ることは全て小学生でもできる範囲のことでしかなかった。

ヒロインの雛月とのアジトや、他の同級生と一緒に悪い大人を倒そうとする姿勢。

そういう、小学生高学年の時に読んだもうタイトルも覚えていないような児童文学とか、出崎監督の「宝島」*7で味わったワクワク感が今作にはあった。

ただ、上述の他の要素が、それだけではない独特の緊張感を与えていた。

 

以上のような、色んなジャンルの要素があるにも関わらず、どのジャンルの型にもはまらない、オンリーワンの物語だった。

犯人とかは簡単に予想できたんだけど、それでもこっちの予想を上回る意外な展開が多く、かなり引き込まれた。

アニメとしての出来

原作を読んでいないため、比較した感想などは書けないのだが、肝心のところで緊張感を出す演出が多く、中々見応えがあった。

恐らく大体は原作通りなのだろうが、原作がいくら面白くても、アニメにしたときにつまらなくなる例というのはいくらでもある訳で、作風に合った良い映像にしていただけでも十分評価できるだろう。

 

また、引きが異常に上手く、「うわー、ここで終わるのかあああああああああ!!続きが来週まで見れないのかあああああああああああああああああああああああ!!!!」みたいな絶望を毎週味わった。

あの最終回1個前の「俺の記憶は戻っているぞ」って悟が言った瞬間で終わるのとか、「ふざけんな!」ってなるでしょ。

ここまで続きが気になるアニメって中々記憶に無い。

 

あと、1クールの最終回でここまで綺麗に決着をつけるアニメも珍しかった。

真犯人と直接対決した上で勝って、悟が救った対象は本当に皆救われていて、楽しそうに人生を謳歌していて、悟の漫画は売れて、更にもう1人の愛梨と再会して、結ばれることまで示唆して終わる。

何一つバッドエンドの要素が無い、完璧な美しいエンディング。

頑張って最終回まで見た甲斐があったし、あの終わらせ方は今でも反芻するぐらい至高だった。

僕だけがいない街を見た僕

もうどれだけの威力を今作が持っていたかという話をしたい。

以下は僕だけがいない街を見ている僕の画像である。

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うぐぅ

もう、本当に怖くて、胃が痛くて、毎週最新話を再生する時のボタンの気の重さといったら言葉にならない。

画像のように画面を直視できないっていうのはさすがに嘘だけど、見たら見たで結構なショックをほぼ毎週受けて、見た日は寝付くのにも時間がかかるくらいの緊張と興奮があって、正直辛かった。

我ながら「小学生かよ」とか思ったんだけど、「とにかく怖いから」という理由で幼少時代は特撮を一切見なかったし、長い間オタクやってるけど、それなりに刺激の強い作品(ロボットアニメや能力者バトルとかで人が死ぬのは全然良いんだけど、こういう無力なのに殺人鬼に立ち向かうみたいなのは無理)は避けてきた身なので、個人的には新境地だった。

大分主観的な話になるが、そんな俺が「怖いから見たくねえ」と思いながら、毎週夢中で見てたんだから、今作は凄く面白いのだ。

 

 

まとめ

16年冬アニメは「落語心中」と「僕だけがいない街」のおかげでかなり楽しめた。

しかも、前回書いたギャグ2作品も光っていた。

このクールは本当に豊かで、毎日がアニメのおかげで楽しかった。

 

様々なジャンルのアニメが放送される今の世に生を受けたことに感謝しかない。

少なくとも今回挙げた2作品のおかげで、まだこの世には俺が見たことないタイプの物語はいくらでもあることを教えてくれたし、今後も生まれていくであろうことを確信させてくれた。

 

これからも色々なアニメを見ながら、テキトーに本や漫画を読んだり、ゲームを遊んで楽しく生きていきたい。

今、春アニメが絶賛始まっているが、今期も面白い作品が多くてやっぱり毎日が楽しいです。

*1:敬称略、以下同じ

*2:山ちゃん本人のツイッターによると、大学生時代は落研だったらしい

*3:七代目八雲役。この方は今作で初めて知ったのだが、普段は吹き替えで活躍されているよう。最後の「子別れ」は素晴らしかった

*4:うろ覚えなので正確ではない

*5:なお、現在実写の映画を公開中。未視聴。筆者は基本的に実写作品はほとんど見ない。

*6:恥ずかしながら、こちらも未読

*7:1978年に放映されたテレビアニメ。原作はスティーブンスン。ガンバの冒険ほどではないけどUHF局で定期的に再放送されているイメージ。 

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